Antonio Stradivari 1732 "Red Diamond"
アントニオ・ストラディヴァリ 1732年製 「レッド・ダイヤモンド」
ストラディヴァリウスの中でも、その美しさと共に劇的な歴史を持つことで知られるのが、1732年製「レッド・ダイヤモンド」です。この楽器をこよなく愛したのが、ヴァイオリンの専門家であり奏者でもあったジョージ・ハート(1839-1891)でした。彼はこの楽器を生涯手元に置き、その素晴らしい音色、時を感じさせない保存状態、そして何よりもその見事な色合いから、「レッド・ダイヤモンド」と命名しました。
このヴァイオリンは、名高いルイジ・タリシオからジャン=バティスト・ヴィヨームへ渡ったことでイタリアを離れました。その後、フランスのヴァイオリニストであるアンリ・アーウィン、イギリスのジョージ・ハドックを経て、ジョージ・ハートの愛器となります。20世紀に入ると、公社債ブローカーのフランシス・ジェイ・アンダーヒルやエミール・ヘルマンの手を経て、1937年には外交官夫人アリス・ワーダーが購入し、名演奏家サシャ・ヤコブセンに貸与されることになりました。
しかし1953年1月16日、南カリフォルニアを襲った激しい嵐が、この楽器を悲劇に巻き込みます。ヤコブセンはヴァイオリンと共に海に投げ出され、一命を取り留めたものの、翌日発見された「レッド・ダイヤモンド」は、砂浜で崩壊状態となっていました。絶望的とも思える状況でしたが、名工ハンス・ワイズハールの驚異的な技術によって奇跡的に修復され、再びその音色を取り戻しました。蘇ったこの名器は、ヤコブセンが生涯手放すことなく愛奏しました。
1971年にサザビーズでオークションにかけられた後はW.E.ヒル&サンズが落札し、現在は個人のプライベートコレクションとして大切に保管されています。








